ダークマターは宇宙の質量の大半を占める謎の物質ですが、重力レンズ現象を利用することでその空間分布を直接測定することができます。東京大学数物連携宇宙研究機構(以下IPMU)の大栗真宗特任助教を中心とする国際研究チームはすばる望遠鏡で観測された28個の銀河団画像をについて「強い」重力レンズ現象と「弱い」重力レンズ現象を組み合わせた解析を行うことで銀河団内のダークマター分布をこれまでにない精度で明らかにしました。特に、ダークマター分布の中心集中度について理論予言との矛盾が指摘されており長らく論争が続いていましたが、その論争に決着をつける重要な成果です。

重力レンズ現象とは天体の重力場により光の経路が曲げられる現象ですが、その現象の強さによって二種類に分類されます。一つは「強い」重力レンズ現象と呼ばれる、背後の天体が大きく引き伸ばされたり複数に分裂して観測される現象で、銀河団の中心部でのみ観測されます(図1)。もう一つは「弱い」重力レンズ現象で、これは背後のたくさんの銀河の形状を平均することで重力レンズ現象を統計的に検出する手法です。これらの重力レンズ現象を組み合わせることで銀河団の中心部から外側の領域にいたる広い範囲のダークマター分布を調べることができるようになります。

大栗真宗特任助教らのグループは、スローン・デジタル・スカイ・サーベイのデータから強い重力レンズ現象が観測される銀河団を多数発見し、それらをすばる望遠鏡主焦点カメラにより詳細に観測し弱い重力レンズ現象の解析を行いました。これまでにない規模の強弱重力レンズの詳細解析の結果、従来の一部の主張とは反しダークマター分布の中心集中度は標準的な冷たいダークマター粒子を仮定した理論予言とよく一致することを明らかにしました。またダークマターの平均的な空間分布を測定し、ダークマター分布が球状ではなくおおきくゆがんだ扁平な形状をもつ強い証拠を得ました(図2)。このような扁平なダークマター分布は同研究者の以前の研究で明らかにされていましたが(参照:2010年4月26日プレスリリース)今回異なる手法を異なる銀河団サンプルに適用することで同様の結論を得たことになります。

IPMUが推進する「SuMIRe(すみれ)プロジェクト」の主要な目標の一つは、銀河団分布の進化の観測からダークエネルギーの性質を詳細に調べることですが、本研究成果はそのゴールに向けた重要な一歩となります。この成果をまとめた研究論文はMonthly Notices of the Royal Astronomical Society誌に掲載が決定しており、またプレプリントはこちら から入手できます。


発表雑誌:Monthly Notices of the Royal Astronomical Society
論文タイトル:Combined strong and weak lensing analysis of 28 clusters from the Sloan Giant Arcs Survey
著者:大栗真宗 (IPMU)、他7名

図1: 解析に用いられた銀河団の一つ、SDSSJ1050+0017のすばる画像。矢印は強い重力レンズ効果をうけた銀河団背後の遠方銀河。

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図2: 強弱重力レンズ解析から得られた、銀河団内の平均的なダークマター分布。球状ではなく上下にゆがんでいるのが見て取れる。

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