平成24年度 収支状況概要平成24年度における研究の実施状況

本研究課題は、米国ハワイ島のすばる望遠鏡に改造を加え、超広視野のイメージング用超高性能カメラHSC及びロボットを使った自動制御で2,400銀河を同時に観測できる分光器(超広視野分光器PFS)の2つを製作することを通じて、宇宙の9割以上を占めるとされる正体不明のダークマター(暗黒物質)とダークエネルギーの性質の解明を目指している。

● サブテーマ1「超広視野分光によるダークマター・ダークエネルギーの研究」においては、平成24年3月の概念設計評価会議で国際的に著名な専門家による高い評価と賛同が得られたことを受けて装置の詳細設計と一部製作に着手し、次のステップとして平成25年2月に「PFS詳細設計評価会議」を開催した。ここにおいても評価委員会から極めて高い評価と賞賛の声が寄せられている。若干の遅れが見られた調達契約•委託契約に関しては平成24年度内に遅れを取戻した。分光器の光学素子、検出器、分散素子など本装置の根幹を成す部分の調達契約が成立したことで予算上の不確定性が大きく減少し、平成25年度の本プロジェクト終了時点で予算執行を完了させる現実的な工程表を確立することができた。

● サブテーマ2「超広視野イメージングによるダークマター・ダークエネルギーの研究」においては、すばる望遠鏡への主焦点広視野カメラの搭載時のトラブルにより遅れが発生したために前年度(平成23年度)内での『HSCファーストライト』は順延せざるを得なかった。特に平成23年度末に発生した主焦点装置交換機構の故障は本年度に入ってもすばる望遠鏡の運用に依然として影響を及ぼした結果、HSCのファーストライトは平成24年8月にずれ込むこととなった。こうした当初計画から1年程度の遅れが生じているにもかかわらず、HSCの性能は期待通りのもの(1.5度視野の全面にわたって結像性能0.5秒角以下)であることが確認された。一方で、スケジュールの遅れを取り戻すため、データ解析のソフトウェアを自動化・パイプライン化するなど、観測データ解析の準備体制を拡充して成果達成に向けた加速の努力が行われ、さらに、重力レンズ効果を用いた宇宙のダークマター分布や宇宙の加速膨張に関する科学成果を創出するなどHSC観測を想定した先駆的で重要な研究成果を生み出している。このような成果をふまえ、日本の天文学コミュニティーと国立天文台は本プロジェクトに必要なすばる望遠鏡の観測夜数を割り当てることを正式に決定するに至ったことはプロジェクトの成功にとって大きな前進である。

平成23年度における研究の実施状況

サブテーマ1においては、国際共同研究機関との作業分担、資金調達計画を確定し、平成24年3月の超広視野多天体分光装置(PFS)概念設計評価会議をもって概念設計を完了し、内外の天文学者と技術専門家からなる評価会議において高い評価を受け、装置の詳細設計と製作に向けて邁進するよう強く推奨された。年度当初に目指していた詳細設計までは進めなかったものの、同会議での承認を得て、平成24年度当初から詳細設計および製作へ取り掛かることとなった。
サブテーマ2においては、前年度に完成した超広視野カメラ(HSC)補正レンズをアメリカ合衆国ハワイ州のマウナケア山頂(標高4200m)にあるすばる望遠鏡に輸送し、本レンズ、精密制御駆体、フィルター交換機構およびCCDカメラ部の主要4部位から成るHSCの相互組合せ確認・総合調整の工程に入った。輸送前とハワイ山頂の環境下でのレンズ性能の計測比較を入念に行うなど、製作の最終工程を慎重に行い、補正レンズ単体としてのすべての検査をクリアしたが、平成24年3月、国立天文台が進めている主要部位の一つである精密制御駆体にレンズ取付インターフェイス部の変形という不具合が発生したことにより、HSC補正レンズを組み込むことが出来ず、すばる望遠鏡に搭載して天体の光を通し結像させること(“ファーストライト”)は翌年度を目指すことになった。目下、不具合部位の影響精査および全体の調整を慎重に行っている。よって年度計画に組み込まれていた試験観測には至っていないが、このHSCを使用してのイメージング観測に繋がる、予備的な考察および観測研究による科学的成果はすでに出ており、プレスリリース(大栗真宗1)/(大栗真宗2)を行うなど順調に研究は進んでいる。よって、HSCを使用した本格的な観測、データ解析が開始された後は、本サブテーマ最大の狙いであるダークマター2次元地図作りが滞りなく行われる見通しであり、そのダークマター構造成長の歴史からダークエネルギーの正体を解明する研究が大きく進展することが期待される。

平成22年度における研究の実施状況

本プロジェクトは、ダークマタ-とダークエネルギーの正体を解明して宇宙の起源と未来を理解することを目的としている。まずサブテーマ2において、すばる望遠鏡にHSCカメラを新設し、その広い視野と高い解像度を活用した大規模撮像観測を行って1億個の遠方銀河の詳細データを解析し、更に、それら銀河の正確な距離情報を得るために、並行してサブテーマ1において分光器製作を行うものである。
平成22年度は、サブテーマ1で超広視野多天体分光器の概念設計を行うとともに、世界の天文・素粒子物理研究機関に呼びかけて本プロジェクトへの参加を募った。参加の意思や関心を表明した大学・研究所(以下、「共同研究機関」と呼ぶ)は米、英、仏、ブラジル、台湾、オーストラリアなどに広がっている。これら共同研究機関がそれぞれどれだけの資源を持ち寄り、どのような装置製作の役割分担をするのか、協議が進行中である。計画立案時点(米英の2チームのみを想定)に比べ、それぞれの共同研究機関の予算制度や予算年度、大学・研究所の計画管理の違いなどから、全体の調整をはかって足並みを揃えるのに相応の時間を要している。その結果、役割分担の確定、分光器詳細設計の完了は翌年度へ計画変更することとなった。
サブテーマ2においては、東日本大震災の影響(栃木県宇都宮での補正光学システムの製作調整、国立天文台三鷹でのCCDカメラ部の組立・試験)を乗り越えつつ、工程に大きなインパクトがなく計画が進捗して、HSC補正光学系システムの年度内完成を達成することが出来た。HSCを搭載するのに必要なすばる望遠鏡の改修も済み、特に制御系の改修・増設ではCCDカメラ部との接続試験、システム試験も完了した。一方、撮像観測のデータを処理するソフトウエア構築も着実に進捗し、画像処理パイプライン、画像シミュレーションプログラムを完成させた。

平成21年度における研究の実施状況

平成21年度の研究実施計画は、超広視野多天体分光器の予備設計を開始する一方で、超広視野(視野角1.78平方度)CCD(イメージング)カメラ設置用機器の設計を完了し機器製作を開始することであった。分光器に関しては、共同研究者となることが予想される、米国、英国、仏国の研究者と意見交換を行い、計画全体の展望について具体的検討を開始した。イメージングに関しては、初期の目的どおり、補正光学システム、すばる望遠鏡改修案、CCDカメラ本体とエレクトロニクスなどの設計をすべて終了し、各要素の製作を開始した。さらに、オンライン・オフラインデータ解析システム(パイプライン)の仕様を決定し、具体的な設計を開始した。CCDカメラを用いたイメージング観測(サーベイ)計画の策定も進捗し、プリンストン大学の研究者を含む、日米合同のワーキンググループを設置した。物理解析のためのシミュレーション、弱い重力レンズ効果検出のための新しいアルゴリズム、ダークエネルギーが宇宙進化に及ぼす効果を予測するための多体シミュレーションなどの研究が進んだ。